―同じ「医師の開院」でも、銀行の評価軸はまったく異なる―
「医師の開院は融資が出る」は本当だが、前提は同じではない
医師のクリニック開院は、
一般論として「融資が出やすい」と言われます。
これは事実です。
銀行の立場から見ても、
医師という職業は
・資格があり
・需要があり
・一定の社会的信用がある
そのため、
他業種と比べれば
融資のスタートラインは高い。
ただし、ここで一つ、
誤解されやすい点があります。
銀行は「医師」という括りで
一律に見ているわけではありません。
実務の現場では、
・歯科
・内科
・美容(自由診療中心)
これらは、
まったく別の事業モデルとして
見られています。
先日、銀行の支店長と話をする中でも、
こんな率直な声がありました。
「正直、歯科はもう多すぎる」
「同じ支店内に取引先の歯科が何件もある」
「これ以上増えたら、
同じ商圏で食い合わないか心配になる」
ただし、
これは「歯科はダメ」という話ではありません。
銀行が、歯科という業態を
どういう前提で見ているか
という話です。
この記事では、
歯科・内科・美容で
銀行の見方がどう違うのかを、
できるだけ冷静に、
かつ現場目線で整理します。
銀行は「善悪」ではなく「構造」で見ている
まず最初に、
強調しておきたいことがあります。
銀行は、
・この診療科は良い
・この診療科は悪い
という価値判断をしていません。
銀行が見ているのは、
構造的に安定しやすいか、
不安定になりやすいか
という一点です。
つまり、
・需要はどうか
・競合はどうか
・価格はコントロールできるか
・患者数は読めるか
こうした要素の組み合わせです。
この前提を押さえたうえで、
診療科ごとの見方の違いを見ていきます。
① 歯科に対する銀行の見方
「歯科は競合が多い」というのは、感情ではなく事実
歯科について、
銀行の現場でよく聞く言葉は、
「もう十分ある」
「このエリアは歯科が多い」
というものです。
これは感覚論ではありません。
・人口当たりの医院数
・既存取引先の数
・過去の融資実績
こうしたデータを踏まえた、
実務的な見方です。
特に支店レベルでは、
「すでに歯科の取引先が複数ある」
「同じ商圏内で、
自分たちが融資した医院同士が
競合する可能性がある」
という視点が強くなります。
これは、
銀行としては当然のリスク意識です。
銀行が歯科で不安に思うポイント
歯科に対して、
銀行が構造的に不安を感じやすい点は、
主に次の3つです。
① 競合が非常に多い
歯科は参入障壁が低く、
長年にわたって医院数が増え続けています。
結果として、
・半径1kmに複数医院
・差が見えにくい
・患者が分散する
という構造になりやすい。
② 差別化が「外から見えにくい」
銀行員は歯科医療の専門家ではありません。
そのため、
・技術力の差
・治療方針の違い
が、
数字に落ちるまで評価できない
という現実があります。
③ 既存取引先との関係性
支店としては、
「すでに長年付き合っている歯科」
がある場合、
新規歯科に対して
慎重にならざるを得ません。
それでも歯科が融資を受けられている理由
ここまで読むと、
歯科は不利に見えるかもしれません。
しかし、
実際には歯科の融資は
今も数多く実行されています。
理由はシンプルで、
「歯科は数字が読める」
からです。
・レセプト
・患者数
・診療単価
これらが、
ある程度パターン化できる。
銀行は、
「爆発的に伸びる」よりも
「大きく崩れにくい」ことを
重視します。
歯科は、
派手さはないが、
安定モデルを描きやすい
と見られているのです。
② 内科に対する銀行の見方
内科は「地域インフラ」として見られやすい
内科に対する銀行の見方は、
歯科とは少し異なります。
内科は、
・高齢化
・慢性疾患
・継続通院
といった要素と結びついており、
地域医療のインフラ
として認識されやすい。
銀行の中では、
「なくならない診療科」
「急激に競争が激化しにくい」
というイメージがあります。
内科で銀行が評価しやすいポイント
① 患者層が読みやすい
年齢層、通院頻度、
季節変動。
これらが比較的読みやすい。
② 売上の変動が緩やか
歯科ほど競合過多ではなく、
美容ほど変動もしない。
③ 地域性との相性
立地と人口構成が合っていれば、
比較的素直に評価されます。
内科でも見られている注意点
もちろん、
内科だから安心というわけではありません。
・開業医過多のエリア
・後継問題
・勤務医からの移行
こうした点は、
歯科同様に見られます。
ただし総じて言えば、
銀行にとって内科は
理解しやすいモデルです。
③ 美容(自由診療)に対する銀行の見方
美容は「読みにくいが、可能性もある」
美容皮膚科や自由診療系は、
銀行の中でも
評価が分かれやすい分野です。
理由は明確で、
数字の振れ幅が大きい
からです。
銀行が慎重になる理由
① 保険収入がない
売上が
完全に市場と集客に依存します。
② トレンド依存
施術内容や流行が変わる。
③ 広告費・人件費が重い
固定費構造が
歯科・内科と異なります。
それでも融資が出るケース
一方で、
・実績のある医師
・明確なターゲット
・数字の説明が具体的
こうしたケースでは、
評価されることも多い。
美容は、
「理解できる計画かどうか」
がすべてです。
診療科別に銀行が特に見ているポイント整理
簡単に整理すると、
- 歯科
→ 競合と差別化をどう説明するか - 内科
→ 地域性と継続性 - 美容
→ 数字の根拠とリスク管理
となります。
どれが有利・不利ではなく、
説明すべきポイントが違う
というだけです。
これから開院を考える歯科医師へ
最後に、
歯科で開院を考えている方へ。
銀行が競合を気にしているからといって、
悲観する必要はありません。
大切なのは、
・「他院と違う」と主張すること
ではなく、
・「どうやって安定させるか」を
数字で語ることです。
たとえば、
・初期は保守的に
・無理な設備投資をしない
・固定費を抑える
こうした設計は、
銀行にとって非常に安心材料です。
差別化が分からない、
という正直な感覚も、
実は銀行側と近い。
だからこそ、
過度なストーリーより、
現実的な設計が
評価されます。
まとめ
銀行は診療科ではなく「説明の構造」を見ている
歯科・内科・美容。
銀行の見方は、
確かに違います。
しかし、
共通しているのは一つ。
説明できるかどうかです。
・なぜこの診療科か
・なぜこの立地か
・なぜこの規模か
これを、
数字とともに語れるか。
銀行は、
歯科を嫌っているわけではありません。
内科を特別扱いしているわけでもありません。
美容を否定しているわけでもありません。
理解できないものを
慎重に見ているだけです。
この視点を持って準備すれば、
銀行面談は
決して怖いものではなくなります。
