――“数字の赤字”より“企業の生命力”を問われる時代へ――
■「赤字だから融資は無理」…その思い込みが経営を弱くする
「先生、決算が赤字なんです。今年は銀行にお願いできませんよね?」
私は銀行員時代、こういった言葉を何百回と聞いてきました。
しかし結論から言えば――
赤字でも、融資は受けられます。
しかも、事業性評価が導入された今の金融行政では“赤字=融資不可”ではありません。
実際、私は審査官として10年間、何度も「赤字企業に融資を通す」経験をしました。
そして現在、銀行取引コンサルタントとして中小企業の支援を行う中でも、赤字企業の融資を通すケースは珍しくありません。
問題は、経営者が赤字の意味を理解できていないこと。
もっと言えば、「赤字のどこが問題で、どこは問題ではないのか」を知らないまま、銀行と対峙してしまっていることです。
銀行は「赤字」そのものを嫌うのではなく、**赤字の背景にある“癖”や“経営姿勢”**を見ています。
そして事業性評価とは、その“背景”を深く読み取る手法です。
本稿では、赤字決算でも融資が取れる企業の条件、逆に赤字が致命的になるケース、銀行が重視する事業性評価のポイントを、元審査官の視点で徹底的に解説します。
■事業性評価とは何か
――“未来のキャッシュフローを見極める”最新の審査思考
ここ数年、金融庁は全国の銀行に「事業性評価」を強く求めています。
これは一言でいえば、
「決算書の数字だけで判断せず、企業の本質的な価値を評価しなさい」
という方針です。
事業性評価で見るポイントは大きく3つ。
① ビジネスモデル
・どうやって利益を生み出しているのか
・競争優位性はどこか
・市場・顧客の動きはどうか
② 経営者の資質
・説明力
・課題認識の精度
・改善行動の一貫性
・社長の“言葉”と“数字”の整合性
③ キャッシュフロー創出の可能性
・来期以降キャッシュが生まれるのか
・赤字の原因が一時的か構造的か
・資金使途と収益の紐づけ
重要なのは、“赤字”そのものよりも、赤字に至った理由と今後の改善可能性です。
銀行は未来に賭けるのです。
■赤字でも融資が通る企業の5つの特徴
元審査官として断言できます。
赤字でも通る会社は、共通して次の5つを備えています。
① 営業キャッシュフローがプラス
損益が赤字でも、営業CFがプラスなら資金は回っています。
これほど強い材料はありません。
銀行が本当に見ているのは「PLではなくCF」。
PL赤字でも、
・減価償却が大きい
・在庫が適正
・回収が早い
などの理由でCFがプラスなら、「返済原資あり」と判断されます。
② 赤字の理由を“社長自身が説明できる”
事業性評価で最も重視されるのは、「説明力」。
NG例
「税理士に任せていて、よく分からない」
→ これは審査で最悪の印象。
OK例
「売上は伸びているが、人材確保で採用費と教育費が増加し赤字。
ただし、既に新規顧客獲得の基盤が整ったため、来期から利益改善できる見込み」
この“言語化力”が稟議を通します。
③ 赤字が“未来への投資”と判断できる
例:
・新工場の立ち上げ
・新規営業所の開設
・人材採用
・大型案件の仕入れ超過
これらは、一時的な赤字の典型です。
銀行は「投資のための赤字」は非常に理解を示します。
むしろ“成長企業にありがちな赤字”としてポジティブに受け取ることも多い。
④ 資金使途と返済原資が論理的に結びついている
審査官は、稟議書でこう自問します。
「この資金は、次のキャッシュを生むのか?」
・用途が曖昧
・返済原資の説明が不足
・“とりあえず資金繰り”
これは否決になりやすい。
⑤ 社長の“改善行動”が見える
事業性評価とは本質的に、「この社長は改善できるか」を見る制度です。
・月次試算表を出す
・資金繰り表を付ける
・金融機関と対話する
・課題への仮説を立てる
この“改善する習慣”が、稟議書で最も評価されます。
■逆に「赤字でも絶対に通らない企業」とは?
赤字でも通る企業の逆パターンです。
① 営業キャッシュフローがずっとマイナス
CFがずっと出ていない場合、返済原資が存在しないため通りません。
② 社長が数字を理解していない
「税理士に任せている」という言葉は、審査官の警戒ランプを最大点灯させます。
銀行が見ているのは数字ではなく、
「社長が数字と向き合う姿勢」です。
③ 赤字が“原因不明”
構造赤字なのか、一時的要因なのか、説明できない場合は否決されます。
④ 財務が破綻している
・資本欠損
・役員貸付金の膨張
・長期借入を短期借入で回している
これは赤字よりも重大なNG材料。
⑤ 説明が後ろ向き
「仕方ない」「時代が悪い」
こういった言い訳が多いと融資は非常に通りにくい。
銀行は“前向きな社長”に賭けます。
■銀行は“赤字の深さ”ではなく、“赤字の質”を見る
審査では赤字の“質”が問われます。
◎ 良い赤字(前向き赤字)
・設備投資
・採用増
・一時的要因
・成長局面の先行投資
→ 融資が通る可能性が高い
× 悪い赤字(構造赤字)
・慢性的な利益不足
・営業力不足
・単価下落
・顧客離れ
→ 融資が極めて難しい
審査官は、「赤字の質」を見極めるために、
PLだけでなく、BS、キャッシュフロー、取引履歴、業界動向を照らし合わせながら総合判断します。
ここが“事業性評価”という審査手法の本質です。
■元審査官が語る「赤字でも通した実例」
私が審査官だった頃、こんな案件を通したことがあります。
■ケース:赤字2期連続+債務超過
通常なら否決。
しかし、私は通しました。
理由は3つ。
- 営業CFがずっとプラスだった
- 新規取引先が開拓されていた
- 社長の説明が実にロジカルで誠実だった
決算書だけ見れば危険企業。
しかし、“未来への伸び代”が明確でした。
審査官は、実は数字以上に「人物」を見ています。
■では、赤字企業は具体的に何をすれば融資が通るのか?
銀行取引コンサルタントとして現場で見てきた経験から、
“最短で融資を通す最強の3点セット”を挙げます。
【1】未来の資金繰り表(6か月〜12か月)
銀行が最も安心する資料。
試算表の100倍の説得力があります。
【2】赤字の原因分析レポート(自社作成でOK)
銀行は“社長の言語化力”を見ています。
書き方は以下で十分。
・赤字の原因
・改善策
・いつ改善するか
これだけで稟議の通過率は大きく上がります。
【3】資金使途と返済原資のロジック表
審査官が知りたいのは「返せる理由」。
ここが明確なら、赤字でも通ります。
■金融行政の変化が「赤字企業の追い風」になっている
実は今、赤字企業にとって追い風が吹いています。
金融庁は銀行に対し、次の方針を強く求めています。
「決算書の数字だけで企業の未来を判断してはならない」
これは、赤字企業にとって大きなチャンスです。
・決算が弱くても
・財務体質が未熟でも
・成長局面で利益が出ていなくても
“未来に価値がある企業”は融資せよ
というのが金融行政の流れ。
この潮流を理解しているかどうかで、融資の可能性は大きく変わります。
■元審査官として断言する「事業性評価で最も重要なのは、社長の姿勢」
私は25年間銀行で働き、
稟議を通す側・否決する側の双方を経験してきました。
そして断言します。
赤字企業の融資可否は、数字で決まるのではなく、
“社長の姿勢”で決まる。
・数字と向き合う姿勢
・課題を言語化する姿勢
・改善に動く姿勢
・銀行と対話する姿勢
姿勢は数字に表れます。
数字は人格を映し出します。
銀行は、その“人格”を見ています。
■まとめ ― 赤字でも融資は通る。ただし「赤字のまま戦う準備」が必要。
赤字でも、事業性評価次第で融資は通ります。
しかし、赤字のまま戦うには準備が必要です。
・未来の資金繰り
・赤字の原因分析
・資金使途のロジック
・事業モデルの理解
・銀行との対話
これらを整えることで、赤字でも銀行は“未来に賭ける”と判断します。
■筆者あとがき
私は10年間審査を担当し、
現場では一度「断られた融資を通す」ことに情熱を燃やしてきました。
現在は銀行取引コンサルタントとして、
赤字の社長や苦境の企業の“最後の砦”として伴走しています。
赤字は罪ではありません。
赤字は「未来を変える力がまだ残っている」というサインです。
銀行は、あなたの未来を奪うために存在しているのではありません。
未来をともに創るために存在しています。
もしあなたが赤字で悩んでいても、
事業性評価を正しく使えば、未来は十分に変えられます。
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