「働きやすいのに辞めたくなる」――若者が感じる“パープル企業”という静かな危機

「働きやすいのに辞めたくなる」――若者が感じる“パープル企業”という静かな危機

残業は少ない。人間関係も悪くない。
それでも若者は、会社を去ろうとします。

近年、「ゆるブラック」「パープル企業」という言葉が定着しつつあります。法律違反のような過酷さはなく、むしろ働きやすい。けれども、成長の実感が得られない。そのような企業を指す言葉です。マイナビの調査では、20代の約7割が「自社をゆるブラック・パープル企業だと感じる」と回答しています。

一見すると贅沢な悩みにも見えますが、ここには構造的な問題があります。


若者は「安定」より「キャリア安全性」を見ている

コロナ禍を経て、若者の価値観は明確に変わりました。
かつてのように「会社に守ってもらう」前提ではなく、自分自身の市場価値をどう維持するかが最大の関心事になっています。

終身雇用は崩れ、賃金も右肩上がりとは限らない。
そうした環境で若者が求めるのは、「今の会社に居続けても、次の選択肢が残るか」というキャリアの安全性です。

そのため、
・仕事がルーティン化している
・新しい挑戦の機会がない
・失敗を避ける空気が強い

こうした職場環境は、「楽」ではあっても「不安」を生みます。
「このままでは、外に出た瞬間に通用しなくなるのではないか」。
それが、早期離職や転職意識につながっています。


パープル企業が生まれる企業側の事情

もちろん、企業側にも言い分があります。

パワハラやコンプライアンス違反への社会的な目は厳しく、管理職は「強く言うこと」を避けがちです。結果として、指導やフィードバックが減り、波風の立たない職場が生まれます。

これは一種のリスク回避行動です。
しかし、その行き着く先が「無菌室」のような職場であるならば、成長は止まります。

実はここに、経営・財務の視点でも見逃せない問題があります。


銀行は「人が育つ会社」を見ている

銀行や投資家は、企業を評価する際に財務諸表だけを見ているわけではありません。
最近とくに重視されているのが、人材の新陳代謝と育成の仕組みです。

・若手が定着しているか
・特定の人に業務が属人化していないか
・次の管理職候補が育っているか

パープル企業は、一時的には離職率が低く見えることもあります。しかし、若手が静かに力を蓄えられず、数年で一斉に抜けると、組織は一気に弱体化します。

銀行目線では、
「居心地は良いが人が育たない会社」=中長期リスクが高い会社
と映ることも少なくありません。


企業が取るべき3つの現実的な対応

では、どうすればよいのでしょうか。答えは極端な改革ではありません。

① 管理職への啓蒙
「叱らないこと」と「育てないこと」は違います。成長のためのフィードバックは、リスクではなく投資です。

② ストレッチ目標の設定
OKRなどを活用し、「今の能力を少し超える」目標を与える。失敗が許容される設計が重要です。

③ 1on1による認識のすり合わせ
若手が感じている不安は、言語化されないまま蓄積します。定期的な対話でズレを修正することが欠かせません。


「働きやすさ」だけでは足りない時代

もはや、定時退社や福利厚生だけでは、優秀な若者は定着しません。
求められているのは、個人の市場価値を高める支援です。

それは人事施策であると同時に、
企業の持続性を高め、銀行からの信頼を守る経営戦略でもあります。

「働きやすい会社」から、
「ここで働けば、次も通用する会社」へ。

それが、パープル企業から抜け出すための第一歩なのだと思います。

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